燕の巣を選ぶとき、多くの方が最初に見るのは「色」だと思います。白いほうがきれいそう。赤いほうが高級そう。売り場でも、そう説明されることがあります。
ところが、マレーシア国民大学で15年以上この素材を研究してきたお二人に同じ質問をしたとき、返ってきた答えは意外なものでした。
FACT
「この問題は、今日まで解決していません。」
出典:リム・センジョー准教授(マレーシア国民大学)。2026年3月14日、クアラルンプールにて。
消費者が見た目で本物を見分ける、確実な方法。それは、まだ見つかっていないというのです。
白くする加工も、赤くする加工も、実際にあります。
市場には、白さを出すために漂白を施したものが流通しています。逆に、赤みのあるものが高く売れるため、着色されているものもあります。
着色の場合、割ってみると中は白い。そこで「中まで赤くする」加工が行われることもある、と聞きました。
念のため申し上げますが、赤みそのものが偽物の証ではありません。
ただし、ここは正確に書く必要があります。「アナツバメが血を吐いたから赤い」という説明をよく見かけますが、誤りです。
2018年の研究が、原因を特定しています。巣の糖タンパク質に含まれるチロシンがニトロ化され、3-ニトロチロシンに変わることで、白い巣が赤くなる。血でも鉄分でもなく、巣そのものの成分の化学変化です。この話はこちらの記事で詳しく扱いました。
そして、この研究は赤い巣で亜硝酸塩・硝酸塩の濃度が高いことも、同じ仕組みで説明できると述べています。つまり赤い色と、亜硝酸塩・硝酸塩の多さは、同じ現象の裏表です。
ここから、赤い巣について見るべきことが二つ決まります。
- 亜硝酸塩・硝酸塩がどれくらいなのか。自然に赤くなった巣ほど、これらの濃度は高くなります。前回の記事で見たとおり、洞窟産の硝酸イオンはバードハウス産の約377倍という測定結果があります。
- 人の手で色をつけていないか。赤い巣が高く売れるために、着色されたものが実際に流通してきました。
つまり「赤い=高級」ではありません。むしろ、赤い巣は、確かめることが増えると考えたほうが実態に近いと、私たちは考えています。
それが、この問題の難しさです。
混ぜものにも、種類があります。
研究チームが確認している偽装の材料は、海藻、寒天、卵白、豚の皮、菌類など。見た目と食感を似せるためのものです。
燕の巣自体には、はっきりした味がありません。だから、口に入れて気づくことも難しい。
なお、豚由来の材料が混入した場合、ハラール認証との関係でも問題になります。査読済みのレビュー論文も、混入・偽装とハラール/ハラームを、この業界の課題として並べて挙げています。 文献で名前が挙がっている混ぜ物と、それを見分ける方法については燕の巣に、何が混ぜられてきたか。にまとめました。
漂白しなくても、色は違います。
ここまで加工の話をしてきましたが、加工とは関係なく、産地によって色が違うという測定結果があります。
FACT
タイ南部8県で採れた巣を調べた2022年の研究では、明るさを示すL値が、家(バードハウス)産88.41、洞窟産81.31だった。赤みを示すa値は1.01と1.91、黄みを示すb値は11.63と17.45。一方で、タンパク質のパターンには明確な差がなかったと報告されている。
出典:Chantakun K, Nilsuwan K, Sripradit A, Benjakul S. International Journal of Food Science and Technology. 2022;57(4):2447-2458.
色は違う。でも、タンパク質の並びは、見た目ほど違わなかった。
つまり「白いほど中身が良い」という言い方は、この結果とかみ合いません。白さは、産地でも加工でも動きます。中身の話とは、別に見る必要があります。
国や地域ごとの数字は、同じ「燕の巣」でも、測ると値が違います。にまとめました。
では、何を見ればよいのか。
見た目で判断できないのであれば、見るところを変えるしかありません。
研究の現場では、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という機器で成分を分析します。個人にできることではありません。ですが、そういう検査を受けているかどうかは確かめられます。
もうひとつ、規制の話があります。研究者が指摘していたのは、ごくわずかな量しか入っていなくても「燕の巣ドリンク」と名乗れてしまうという現状でした。含有量の表示があるかどうかは、ひとつの手がかりになります。
そしてもう一つ。その巣が、どこで採れて、どう加工されたのかを、売る側が説明できるかどうか。
前回の記事で見たとおり、加工の方法は工場によってまったく違います。水に浸すところ、浸さずにピンセットで取るところ、薬剤を使うところ。だから「どう加工したか」は、本来なら聞けば答えられるはずのことです。
答えられないとしたら、それ自体が一つの情報です。
この基準は、私たちにも同じように向けられます。
ここまで書いてきた「何を見ればよいか」は、他社を評価するための基準ではありません。
検査を受けているか。含有量を表示しているか。産地と加工を説明できるか。これらはすべて、私たち自身にも同じように問われるべきものです。
WHAT WE DON’T KNOW YET
まだ分かっていないこと
- 消費者が現場で本物を見分ける、確立された方法はまだありません。この記事も、その答えを示すものではありません。
- 偽装の材料として挙げた品目は、研究者への取材でうかがったものです。国内流通品における実態調査を、私たちはまだ確認できていません。
- 含有量の表示規制は国によって異なり、日本国内の実態を私たちはまだ調べきれていません。
- 赤色になる化学的な仕組みは特定されましたが、なぜ特定の巣や場所でそれが起きるのか(窒素化合物がどこから、どんな条件で供給されるのか)は、まだ十分に整理されていません。
- 着色に使われた色素の種類や、その健康影響について、私たちは原著を確認できた資料を持っていません。この記事では「着色が行われてきた」という事実までにとどめています
DISCLOSURE
この記事について
ツバメディアは、日本伴照株式会社が運営しています。同社は燕の巣を扱う事業者であり、中立な第三者ではありません。
同社はマレーシアのGLYKEN社の燕の巣を原料とする製品を日本で販売しており、記事内で紹介した機関とも関係があります。
記事のなかで商品を販売することはありません。この記事に書いた「何を見ればよいか」は、私たち自身にも同じように適用されます。
SOURCES
- サラム・バブジ教授、リム・センジョー准教授(マレーシア国民大学)への取材。2026年3月14日、クアラルンプール。掲載許諾取得済
- Shim EKS ほか「Nitration of Tyrosine in the Mucin Glycoprotein of Edible Bird’s Nest Changes Its Color from White to Red」Journal of Agricultural and Food Chemistry, vol.66(22), 2018, pp.5654–5662. DOI: 10.1021/acs.jafc.8b01619(赤色化の原因はチロシンのニトロ化。編集部が抄録を確認)
- Nurul Hidayah Jamaludin ほか「Overview of edible bird’s nests and their contemporary issues」Food Control, vol.104, 2019. DOI: 10.1016/j.foodcont.2019.04.042(赤い巣の色に関する諸説、混入・偽装とハラールをめぐる業界の課題。編集部が原著を確認)
- Chantakun K, Nilsuwan K, Sripradit A, Benjakul S. House and cave edible bird’s nest: Characteristics and quality of sterilised beverages containing the selected bird’s nest. International Journal of Food Science and Technology. 2022;57(4):2447-2458.
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