燕の巣の商品説明で、「EGF(上皮成長因子)が含まれている」という言葉を見かけることがあります。
私たちは、この一文を書きません。
書けない理由があります。2022年に発表された研究で、燕の巣のタンパク質が網羅的に調べられました。そこで同定されたのは398種類。そのなかに、単体のEGFはありませんでした。
まず、何が調べられたのか。
2022年、香港理工大学などの研究チームが、食用の巣をつくるアナツバメ(Aerodramus fuciphagus)のゲノムを初めて構築しました。
これは、それまで燕の巣のタンパク質を網羅的に調べられなかった理由そのものへの対処です。タンパク質を質量分析で同定するには、その生物の遺伝子配列のデータベースが必要になります。アナツバメのゲノムがなかったため、燕の巣のタンパク質の全体像は分からないままでした。
研究チームは、まずゲノムをつくり、そこから予測した配列でデータベースを組み、そのうえで燕の巣を分析しました。
398種類のタンパク質が同定された。
FACT
燕の巣から398種類のタンパク質が同定された。そのタンパク質群は、細胞外のタンパク質、細胞外マトリックスの構築に関わるタンパク質、免疫応答に関わるタンパク質に偏っていた。単体のEGFタンパク質は同定されなかった。一方で、カルシウムイオン結合EGF様ドメインを持つタンパク質がいくつか見つかった(フィブリリン-1、プロトカドヘリン fat 4、凝固第X因子など)。
出典:Kong HK ほか. Food Research International. 2022;160:111670.
蒸留水で常温抽出したとき、酸性哺乳類キチナーゼとリシルオキシダーゼは活性を保っていた、という報告もあります。
「EGFが入っている」と「EGFに似た構造がある」は、別の話です。
論文の著者らは、これまで報告されてきた「EGF様の活性」について、EGF様ドメインを持つこれらのタンパク質によるものかもしれない、と書いています。
ここは丁寧に分けておきたいところです。
- 単体のEGFが入っている → この論文では見つかっていない
- EGFに似た構造(ドメイン)を持つ別のタンパク質がある → 見つかった
- そのタンパク質が、人が食べたときに何をするのか → この論文は調べていない
3つ目が抜け落ちると、「EGFが入っているから肌に良い」という話になってしまいます。論文はそこまで言っていません。
文献は、食い違っています。
ここは正直に書きます。EGFについて、文献の記述は一致していません。
2021年に発表された総説(レビュー論文)には、燕の巣の真贋を判定する方法のひとつとして、免疫ブロット法による記述があります。そこでは「本物の燕の巣はタンパク質1グラムあたり3ミリグラム以上のEGFを含む」とされています。
2022年の論文は「単体のEGFは同定されなかった」と書き、2021年の総説は「3ミリグラム以上のEGFを含む」という判定法を紹介している。
どちらかが誤っているのか、測っているものが違うのか(抗体が反応した何かと、質量分析で同定されたタンパク質は同じものとは限りません)、抽出や加工の条件が違うのか。編集部は、現時点で判断できません。
だから、私たちは書きません。
判断できないことを、都合のいいほうに寄せて書くことはしません。
私たちは燕の巣を扱う会社が運営しているメディアです。「EGFが入っている」と書いたほうが、売る側には有利です。それでも書かないのは、書いたあとで「あの一文は何を根拠にしていたのか」と聞かれたときに、答えられないからです。
燕の巣に何が入っているのかは、燕の巣は、何でできているのですか。に、確認できた範囲で書いています。
WHAT WE DON’T KNOW YET
まだ分かっていないこと
- 2022年の論文と2021年の総説の食い違いが、何に由来するのか。編集部はまだ確かめられていません
- EGF様ドメインを持つタンパク質が、人が食べたときに何をするのか。分かっていません
- 産地や加工条件によってタンパク質の構成が変わるのかどうか。この論文は産地別の比較をしていません
分からないことを、分かったことにはしない。
DISCLOSURE
この記事について
ツバメディアは、日本伴照株式会社が運営しています。同社は燕の巣を扱う事業者であり、中立な第三者ではありません。他社商品との比較や優劣の判定は行いません。研究の説明は、原著論文に書かれている範囲を超えないようにしています。記事のなかで商品を販売することはありません。
アイキャッチのイラストは、ツバメディア編集部が画像生成AIを使用して制作したものです。実在の場所や品物を撮影した写真ではありません。
SOURCES
- Kong HK, Chan Z, Yan CSW, Lo PY, Wong WT, Wong KH, Lo CLS. Revealing the species-specific genotype of the edible bird’s nest-producing swiftlet, Aerodramus fuciphagus and the proteome of edible bird’s nest. Food Research International. 2022;160:111670.
- Chok KC, Ng MG, Ng KY, Koh RY, Tiong YL, Chye SM. Edible Bird’s Nest: Recent Updates and Industry Insights Based On Laboratory Findings. Frontiers in Pharmacology. 2021;12:746656.(総説)
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