エリックさんに、直接聞いてみた。―「自分で自分を良いと言っても、足りない」の意味

燕の巣ナビゲーター|時 昴 の第1回。マレーシアのGLYKEN創業者エリック・シャックさんに会いに行った話です…

執筆編集部

ジョホール州にある GLYKEN 本社の看板の前に立つ、GLYKEN 創業者エリック・シャック氏と時 昴

この連載は、編集部の記事とは少し書き方が違います。

編集部の記事では、できる限り資料を調べ、事実を確認し、根拠のあることを中心に書いています。

ここでは、少し違うことをやってみたいと思っています。私が実際に現地へ行って見たこと。人に会って聞いたこと。そして、そのときに私自身が何を感じ、何を考えたのか。まだ答えが出ていないことも含めて、できるだけそのまま書いてみようと思います。

第1回は、マレーシアのGLYKEN創業者、エリック・シャックさんについてです。

正直、最初はよく分かっていませんでした。

私が燕の巣に関わり始めた頃。燕の巣について、ものすごく詳しかったのかというと、まったくそんなことはありません。

高級食材として知られている。美容や健康のために食べられてきたらしい。中国や東南アジアでは昔から珍重されている。最初は、本当にそのくらいでした。

燕の巣は、高い。では、なぜ高いのか。誰が、どこで、どうやって採っているのか。天然の洞窟で採れるものと、バードハウスで採れるものは何が違うのか。そもそも、良い燕の巣とは何なのか。

そして、「これは良いものです」と言われたときに、私たちは何をもって、それを信じればいいのか。

聞かれたら、答えられないことばかりでした。

だから、会いに行きました。

私はメーカーの経営者です。お客様に商品を届ける以上、「昔から良いと言われていますから」だけで済ませるわけにはいきません。

知らないのであれば、知りに行くしかない。

だから、マレーシアへ行きました。そして、エリックさんに会いました。

家賃収入だけでも、生きていけた人。

エリック・シャックさんは、マレーシアのGLYKENという会社の創業者です。

経歴を聞いて最初に驚いたのは、燕の巣一筋で生きてきた人ではなかったことでした。もともとは広告の世界で長く仕事をしていた。その後、不動産開発の世界に入り、事業を築いていった。本人の話を聞く限り、燕の巣の事業を始めなくても、家賃収入などで生活していける状態まで来ていたそうです。

普通なら、「もう十分じゃないですか」と思います。少なくとも、私は思いました。

ところが、そこからエリックさんは燕の巣の世界へ入っていきます。理由を聞いていくと、出てきたのは事業機会の話ではありませんでした。自分は次の世代に何を残すのか。お金なのか。不動産なのか。それとも、それとは違う何かなのか。そこを考えたのだと言います。

私はその話を聞きながら、人が大きな決断をするとき、最後に動かすものは、案外「儲かるかどうか」ではないのかもしれない。そんなことを考えていました。

「10年、収入はゼロでした」

その中で、今でも強く残っている言葉があります。

「10年、収入はゼロでした」

最初に聞いたとき、「10か月ではなく、10年ですか?」と思いました。

エリックさんは、当初10棟のバードハウスを持つ計画だったそうです。ところが調べていくと、自分が求める条件を満たし、法的にもきちんとした物件が見つからなかった。だったら、自分でつくる。そう考えた。

サバ州の湿地帯へ入り、3か月かけて音の調査をした。建設のために入れたショベルカーが、湿地に沈んだこともあったそうです。

こういう話だけ切り取れば、後からはいくらでも「創業者の美談」にできます。でも、当時の本人に100%の確信があったわけではありません。エリックさん自身、最初の確信は30%くらいだったと話していました。

30%です。それでも始めた。

調べる。失敗する。また調べる。つくる。研究する。確かめる。そうやって、30%だったものを少しずつ100%に近づけていった。その間、10年。事業からの収入はゼロだったといいます。

私は会社を経営していますから、この「10年」という数字が妙に現実的に刺さりました。

事業をやっていると、どうしても早く結果が欲しくなります。今月はいくら売れた。半年でいくらになった。何年で何億円になった。私自身、そういう数字を見ますし、経営者である以上、見なければいけません。

でも、10年間、結果が出なくても続けられるものを、自分は持っているだろうか。そう考えると、簡単には答えられませんでした。

「成功するまで諦めなかったからすごい」というだけの話でもないと思っています。そもそも、そこまでして確かめたいと思えるものに出会えること自体が、珍しいのかもしれない。そんなことを思いました。

「自分で自分を良いと言っても、足りない」

そして、もう一つ。この記事のタイトルにした言葉があります。エリックさんと話していて、何度も感じた考え方です。

自分で自分を良いと言っても、足りない。

メーカーなら、自分の商品を良いと言うのは簡単です。「最高品質です」「厳選された原料です」「こだわり抜いています」。言葉だけなら、いくらでもつくれます。

私自身もメーカーを経営しています。だからこそ、この言葉は他人事ではありませんでした。

商品をつくった側は、その商品への思い入れがあります。時間も、お金も、人も使っています。当然、「これは良いものだ」と思っています。

でも、自分がそう思っていることと、それが本当に確かめられることは別です。

エリックさんは、そこを明確に分けているように見えました。だから、自分たちだけで完結させない。研究機関と組む。第三者による評価を受ける。研究を外に出す。発表する。自分たちの外側にいる人たちが確認できる形にする。

私には、「信じてください」ではなく、「疑ってもらって構わない。その代わり、確かめられるようにしておく」と言っているように聞こえました。

これは、ツバメディアにもかなり影響しています。

ツバメディアをつくるとき、私たちは一つ決めたことがあります。自分たちから「これが最高品質の燕の巣です」とは、できるだけ言わない。

その代わり、どこで採られているのか。どう洗浄されるのか。どんな検査をしているのか。どんな研究があるのか。分かっていることは何なのか。まだ分かっていないことは何なのか。できる限り、その過程を見せていこう。という方針です。

正直に言えば、この考え方にはエリックさんから受けた影響がかなりあります。

「最高です」と言うより、「こうやってつくっています。資料はこれです。研究はここまで進んでいます。あとは、ご自身で見てください」と言える方が強い。少なくとも私は、そういう会社でありたいと思うようになりました。

あとから知って、驚いたことがあります。

これはエリックさん本人ではなく、別の方から聞いた話です。

マレーシアのBioeconomy Corporationでプロジェクト調整を担当するムハマド・ファイザルさんに、GLYKENのBioNexus ステータスについて話を聞いたときのことでした。

ファイザルさんによると、GLYKENがBioNexus のステータスを得るまでには、6年以上の時間がかかったそうです。そして彼は、税制優遇や助成などを先に受けるのではなく、研究による実証を先に進めることをエリックさんが選んだ、という趣旨の話をしていました。

この点については、私自身がエリックさん本人から直接確認した話ではありません。ですから、ここでは事実として断定するのではなく、ファイザルさんからそう聞いたというところまでにしておきます。

ただ、その話を聞いたとき、「なるほどな」と思いました。これまでエリックさん本人から聞いてきた話と、妙につながったからです。

証明されなければ、語ってはいけないのか。

ただ、ここで私は、まだ自分の中で答えが出ていないことがあります。

第三者に確かめてもらう。研究する。データを取る。これは、とても大切です。メーカーである以上、私たちもそこから逃げてはいけないと思っています。

でも一方で、第三者に証明されたことだけが、価値なのだろうか。とも思います。

燕の巣は、昨日生まれた素材ではありません。長い時間、人から人へ受け継がれてきた食文化があります。その中には、現代科学で説明できるものもあれば、まだ説明できていないものもある。史料で確認できる話もあれば、地域で語り継がれてきた伝承もあります。

そして何より、「私はこう感じた」「私の家ではこう食べてきた」「母からこう教わった」という、人の経験があります。

それを全部、「エビデンスがないから意味がない」としてしまうのも、私は少し違う気がしています。かといって、「昔から言われているから正しい」としてしまえば、それも違う。

ここは、今も考えています。科学と文化。データと経験。証明されたことと、まだ証明されていないこと。その境目に対して、私たちはどう向き合うべきなのか。まだ、きれいな答えは持っていません。

だから、「分からない」と言える場所にしたい。

ただ、一つだけ、エリックさんに会ってから以前より強く思うようになったことがあります。

分からないことを、分かったふりだけはしたくない。

研究で確認されたことなら、「ここまでは確認されています」と書く。まだ研究途中なら、「ここから先は、まだ分かっていません」と書く。伝承なら、「こういう話が伝えられています」と書く。そして私自身が現地で感じたことなら、「私は、こう感じました」と書く。

全部を同じ箱に入れなければいい。事実と、伝承と、経験と、私の考え。それぞれを分けながら、一つずつ見ていく。それが、今のところ私が考えているツバメディアの姿勢です。

見て、聞いて、考えて。

私は、燕の巣の研究者ではありません。歴史学者でもありません。だから、この連載で専門家のように答えを断定するつもりはありません。

私ができることは、実際に産地へ行くこと。生産者に会うこと。研究者に話を聞くこと。工場を見ること。資料を読むこと。そして、「それ、本当なんですか?」と聞くことです。

分からなければ、また聞く。自分の目で見られるものなら、見に行く。その途中で感じたことや、迷ったことも含めて残していく。私は、それが「燕の巣ナビゲーター」という立ち位置なのだと思っています。

確かめられたことについては、ツバメディア編集部が根拠とともに記事にします。そしてこの連載では、その手前にあるものを書きます。現地で聞いた言葉。その場の空気。私が驚いたこと。腑に落ちなかったこと。そして、まだ答えの出ていない問い。

エリックさんに会って、私の中に残ったのは、「燕の巣はすごい」という答えではありませんでした。むしろ、逆でした。

自分が良いと思っているものほど、本当にそうなのかを確かめにいく。好きだからこそ、疑う。信じているからこそ、調べる。売りたいからこそ、都合の悪いことも含めて見にいく。その姿勢を、教えてもらったように思います。

私自身、まだできていないことばかりです。だからこれからも、現地へ行きます。研究者にも聞きます。生産者にも聞きます。違う意見を持つ人にも、できれば会いに行きたい。

そして、分からないことは、「分からない」から始めたい。

燕の巣について、私自身が知りたいからです。そして、同じように、「燕の巣って、結局なんなんだろう?」と思っている人と一緒に、その答えを探していけたらと思っています。

見て、聞いて、考えて。この連載では、そんな旅の途中を書いていきます。

DISCLOSURE

このコラムについて

ツバメディアは、日本伴照株式会社が運営しています。私はその代表取締役であり、リアン株式会社の代表も務めています。2026年9月1日より、株式会社キュアレの代表にも就任しました。中立な第三者ではありません。このコラムに登場するGLYKEN社は、当社の取引先でもあります。

だからこそ、このコラムは「取材記事」としては書きません。一人称の見聞きとして書き、事実として確かめたことは編集部の記事に分けています。

掲載にあたっては、ご本人から許諾をいただいています。

POPULAR

よく読まれている記事

  1. 燕の巣を知る燕の巣って、本当に鳥の巣? 意外と知らない7つのこと。
  2. 科学する燕の巣と、アレルギーのこと。
  3. 産地と自然バードハウスの燕の巣は「養殖」なのか。マレーシアで見た、アナツバメと人の関係。
  4. 燕の巣を知る燕の巣は、洗ってあるのですか。
  5. 燕の巣ナビゲーター|時 昴【渡航記・前編】バードハウスへ行くはずが、飛行機が飛ばない。― マレーシア珍道中