燕の巣の話には、たいていシアル酸という言葉が出てきます。そして、たいてい数字がついています。約10%と書いてあることもあれば、0.01%と書いてあることもある。私は最初、どちらかが間違っているのだと思っていました。調べてみると、そうではありませんでした。どちらも正しくて、測っているものが違うだけでした。
同じ燕の巣から、800倍ちがう数字が出る
2023年に、香港の研究チームが、産地も色も異なる生の燕の巣の粉末6検体について、シアル酸の量を測っています。結果は、重量の5.77〜10.92%でした。おおよそ「1割」です。
一方、2014年にマレーシアの研究チームが、ジョホール州の30検体とクランタン州の23検体を測った報告があります。こちらの結果は、ジョホール州が135.04 ± 29.60 mg/kg、クランタン州が95.55 ± 25.6 mg/kgでした。mg/kgを%に直すと、それぞれ約0.0135%と約0.0096%です。
1割と、0.01%。10.92%を0.0135%で割ると、約809倍になります。同じ燕の巣という食材の話です。
FACT
二つの報告が出した数字
- 総シアル酸:5.77〜10.92%(生の燕の巣の粉末6検体/Poon & Sze 2023)
- 遊離シアル酸:135.04 ± 29.60 mg/kg=約0.0135%(ジョホール州30検体/Khairunnisak ほか 2014)
- 遊離シアル酸:95.55 ± 25.6 mg/kg=約0.0096%(クランタン州23検体/同)
「くっついたまま」か、「切り離してから」か
違いは、測る前の処理にありました。
燕の巣のシアル酸は、そのほとんどが糖タンパク質の糖鎖の先端に結合しています。ぶら下がっている状態です。この状態のまま検出できるのは、たまたま外れて浮いている分──遊離シアル酸だけです。
一方、酸を使って糖鎖を切ってしまえば、結合していた分もふくめて全部が浮きます。これを測ったものが総シアル酸です。2024年の中国の研究チームの報告では、0.15 mol/Lのトリフルオロ酢酸で120分間加水分解する方法が使われています。結合している量は、総量から遊離量を引いて求めます。
つまり「1割」は加水分解したあとの数字で、「0.01%」は加水分解する前の数字です。どちらも正しく、どちらも同じ燕の巣を測っています。
数字の横に「総」なのか「遊離」なのかが書かれていなければ、その数字は比べられません。私はこれを知るまで、比べられると思っていました。
ひとつ断っておくと、2014年の報告は、タイトルに「予備的な調査」とあるとおり、二つの州の検体を測った最初の報告です。検体の数も、ジョホール州30点とクランタン州23点にとどまります。ここでの役割は、遊離シアル酸を測るとどのくらいの桁になるかを示すことまでです。
そもそも、シアル酸は1種類ではない
もうひとつ、私が見落としていたことがあります。シアル酸は特定のひとつの物質の名前ではなく、炭素を9個もつ糖の一群の総称です。さきほどの2024年の報告では、Neu5Ac、Neu5Gc、KDNの3種類を分けて測っています。
「シアル酸が◯%」と書くとき、そのうちのどれを指しているのか、それとも合計なのか。ここも、書いていなければ分かりません。
なお、この2024年の論文は、マウスに燕の巣を食べさせたあとの体内の量を調べたものです。私がここで使ったのは、遊離と結合を分けて測る方法と、3種類を分けて測っているという部分だけです。体の中でどうなるかについては、この記事では書きません。
どの国の基準にも、シアル酸の含量要件はない
2021年に、燕の巣に残りうる汚染物質を各国の規格とあわせて整理した総説が出ています。そこに並んでいるのは、亜硝酸の上限(マレーシアのMS 2334:2011、インドネシア、中国のCAIQ-RZ-2015002、いずれも30 ppm以下)、重金属の上限(マレーシアと中国で、鉛2、ヒ素1、水銀0.05、カドミウム1 ppm以下。マレーシアはさらに銅1、鉄0.3 ppm以下)、微生物の上限などです。
私が読んだかぎり、そのどこにも「シアル酸を何%以上ふくむこと」という要件はありませんでした。同じ総説には、インドネシアには重金属の規定そのものがない、という記述もあります。
制度が決めているのは、入っていてはいけないものの上限です。入っているべきものの下限ではありません。ですから「シアル酸が多いほど良い燕の巣」という言い方には、少なくとも各国の規格上の裏づけはありません。
飲み物になると、桁がまた変わる
さきほどの2023年の報告は、もともと「市販の即席飲料に、燕の巣がどれだけ入っているか」を推定する方法をつくるための研究でした。6検体で測った5〜11%という範囲の中間をとって、換算係数を8%と置いています。
その係数をあてはめて市販の飲料10点を推定した結果が、燕の巣の含有量0.014〜0.66%です。どの製品かは、この記事では書きません。私が確かめられるのは、論文にそう書いてあるという事実までだからです。
この数字も推定値です。産地や検体によってシアル酸の量が5.77〜10.92%とばらつく以上、推定にもそのぶんの幅が残ります。論文自体、換算係数の不確かさを±3%と見積もっています。
WHAT WE DON’T KNOW YET
まだ分かっていないこと
- 総シアル酸が5.77〜10.92%とばらつく理由。産地なのか、色なのか、検体差なのか、加工なのか。6検体では分けられていません
- 遊離を測った2014年の報告と、総量を測った2023年の報告は、別の検体を別の方法で測ったものです。同じ検体で両方を測って比を出した報告に、私はまだたどりつけていません
- 日本国内で流通している燕の巣製品のシアル酸量を、統一した方法で測った公開データを、私はまだ見つけられていません
この記事で書かないこと
シアル酸が体の中で何をするのか、という話は書きません。ツバメディアは効果や効能を書かない方針でやっています。その理由は「燕の巣は◯◯に効く」と、ツバメディアが書かない理由。に書きました。
書けるのは、ここまでです。数字は、測り方とセットでしか意味を持たない。私が調べて分かったのは、それだけでした。
DISCLOSURE
この記事について
ツバメディアは、日本伴照株式会社が運営しています。同社は燕の巣を扱う事業者であり、中立な第三者ではありません。他社商品との比較や優劣の判定は行いません。研究の説明は、原著論文に書かれている範囲を超えないようにしています。記事のなかで商品を販売することはありません。
この記事で挙げた数字は、いずれも公開されている学術論文からの引用です。当社の製品を測ったものではありません。
アイキャッチのイラストは、ツバメディア編集部が画像生成AIを使用して制作したものです。実在の場所や品物を撮影した写真ではありません。
SOURCES
- Poon PM-Y, Sze ET-P. Development of Method for Evaluation of Edible Bird’s Nest Content in Ready-to-Eat Beverages. Journal of AOAC INTERNATIONAL. 2023;106(4):1003-1009. doi:10.1093/jaoacint/qsad038
- Khairunnisak M, Marzura MR, Bing CH, Marni S, Norzela AM, Eddy AA. Preliminary study on free sialic acid content of edible bird nest from Johor and Kelantan. Malaysian Journal of Veterinary Research. 2014:9-14. ISSN 2180-3897
- Wang M-H, Wang Z-F, Yuan M, Yang C-G, Wang D-L, Wang S-Q. Changes in the Serum and Tissue Levels of Free and Conjugated Sialic Acids, Neu5Ac, Neu5Gc, and KDN in Mice after the Oral Administration of Edible Bird’s Nests: An LC–MS/MS Quantitative Analysis. Separations. 2024;11(4):107. doi:10.3390/separations11040107
- Yeo B-H, Tang T-K, Wong S-F, Tan C-P, Wang Y, Cheong L-Z, Lai O-M. Potential Residual Contaminants in Edible Bird’s Nest. Frontiers in Pharmacology. 2021;12:631136. doi:10.3389/fphar.2021.631136
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