燕の巣って、本当に鳥の巣? 意外と知らない7つのこと。

春に軒先へ来るツバメと、食用の燕の巣をつくる鳥は別のグループです。何でできているのか、一つの巣に何日かかるのか…

執筆編集部

巣にとまるアナツバメ

春になると、日本の軒先にやってくるツバメ。泥や藁で巣をつくり、そこからヒナが顔を出している。そんな光景を見たことがある方は多いと思います。

では、中華料理などで知られる高級食材の「燕の巣」は、あの巣を食べているのでしょうか。

答えは、いいえ。そもそも、鳥が違います。

そして調べてみると、「鳥の巣を食べる」という一言から想像していた以上に、不思議な世界がありました。

日本のツバメとは何が違うのか。本当に唾液でできているのか。洞窟とバードハウスでは何が違うのか。巣を採って、鳥は大丈夫なのか。白い巣と赤い巣は、何が違うのか。

今回は、燕の巣について最初に知っておきたいことを、7つに分けて紹介します。

01|そもそも、日本の「あのツバメ」ではありません。

まず、ここからです。

春になると日本へやってきて、家の軒先などに巣をつくるツバメ。食用燕の巣をつくっているのは、あの鳥ではありません。名前は似ていますが、生物学的には異なるグループの鳥です。

日本でよく見かけるツバメは、スズメ目ツバメ科。一方、食用燕の巣をつくることで知られるアナツバメの仲間は、アマツバメ目アマツバメ科。

英語にすると、もっと分かりやすくなります。日本のツバメは Swallow。アナツバメは Swiftlet。そもそも英語では、違う名前で呼ばれている鳥です。

さらに鳥類の系統関係で見ると、アマツバメ類はハチドリ類と同じ大きな系統に属しています。見た目が少し似ているから、日本語ではどちらも「ツバメ」。でも、そのルーツをたどると別の鳥なのです。

日本のツバメとアナツバメ

日本でよく見るツバメ食用燕の巣をつくるアナツバメ
分類スズメ目ツバメ科アマツバメ目アマツバメ科
英語SwallowSwiftlet
主な巣材泥・植物など+唾液舌下腺由来の分泌液が主体
主な営巣場所軒先など洞窟・バードハウスなど
食用燕の巣つくらない一部の種がつくる

ですから、日本のツバメの巣を採って食べるわけではありません。ここが、燕の巣を知る最初の一歩です。

02|巣の主役は、泥でも藁でもなく「分泌液」。

では、何でできているのでしょう。

燕の巣について、「アナツバメの唾液でできている」と聞いたことがあるかもしれません。大きくは間違っていません。

ただ、もう少し正確に言えば、アナツバメの舌の下にある一対の舌下腺から分泌される、粘性の高い分泌液が巣材の中心です。

査読済みのレビュー論文には、アナツバメの舌下腺は繁殖・営巣期に大きく発達し、約2.5mgから最大160mgになるという報告(Medway 1962)が紹介されています。実に約64倍です。

その分泌物を、少しずつ。何度も。壁などに重ねていく。やがて乾燥し、半透明の小さな巣になります。

ただし、ここでも一つ訂正しておきたいことがあります。よく、「燕の巣は100%唾液だけでできている」と言われます。

食用燕の巣をつくる種では舌下腺由来の分泌液が主要な材料ですが、種や巣によって羽毛や植物片などが含まれる場合があります。同じレビュー論文は、食用に適する巣で分泌液が70〜80%、それ以外が20〜30%と整理しています。さらに Collocalia esculenta の巣は、食用にできる部分が10〜15%しかありません。

したがってツバメディアでは、「100%唾液」ではなく、「舌下腺由来の分泌液を主な材料としてつくられる」と表現します。ほんの少しの違いですが、確かめられていることを正確に伝えるためには、大切な違いです。

巣の成分については、燕の巣は、何でできているのですか。でさらに詳しく扱っています。

03|一つの巣をつくるのに、およそ35日。

そして、この巣は一晩でつくられるものではありません。

レビュー論文では、アナツバメが一つの巣をつくる期間はおよそ35日とされています。毎日少しずつ分泌物を重ね、繁殖のための場所をつくっていく。完成した巣は、長さ5.0〜10.0cm、幅3.5〜6.0cm、重さ4.0〜8.0g。わずか数グラムです。

そこへ卵を産み、抱卵し、ヒナを育てます。つまり、「巣ができた」で終わりではありません。その先に、卵を産み、ヒナを育てる時間があります。

燕の巣は私たちにとっては食品ですが、アナツバメにとっては、命を育てる場所です。

この35日が価格にどう関わるのかは、なぜ、燕の巣はこんなに高いのですか。で扱っています。

04|「一度使った巣は、二度と使わない」は本当?

ここは、燕の巣について調べる中で、とても興味深かったことです。

現地では、「ヒナが巣立った後の巣を採る」「使い終わった巣を回収する」と説明されることがあります。そこから、「アナツバメは一度使った巣を二度と使わない」と説明されることもあります。私たちも現地で、そうした説明を耳にしてきました。

この説明は、産地で長くアナツバメと関わってきた方々が、日々の観察から語っているものです。ツバメディアは、この説明を採っています。

では、採取について何を見ればいいのでしょうか。

大切なのは、いつ採るのか。卵があるのか。ヒナがいるのか。繁殖の途中なのか。巣立った後なのか。採取によって繁殖を妨げない管理ができているのか。

「採る・採らない」の二択ではなく、どう採るのか。ここを見る必要があります。

このテーマは、燕の巣を採っても、アナツバメは大丈夫なのですか。でさらに詳しく追いかけています。

05|「バードハウス」は、鳥を閉じ込める養殖場ではありません。

現在の燕の巣を知るうえで欠かせないのが、バードハウス(swiftlet house)です。

名前だけ聞くと、養鶏場のように、アナツバメを捕まえて建物の中で飼育している姿を想像するかもしれません。私たちがマレーシアで見たバードハウスは、そうではありませんでした。

鳥を入れる檻はありません。外へ出られないよう閉じ込めるわけでもありません。人間が餌を与えて太らせる仕組みでもありません。

朝になるとアナツバメは外へ飛び出し、自然界で飛んでいる昆虫を捕食し、夕方になると戻ってくる。出入りするかどうかは、鳥の自由です。

人間が用意しているのは、鳥そのものではなく、「営巣できる環境」です。暗さ。温度。湿度。巣をつくるための場所。そして周囲の自然環境。

私たちは現地で、バードハウスを「人間がつくった人工の洞窟のようなもの」と説明されました。この表現が、かなり実態に近いように感じました。

人間が建物をつくっても、アナツバメが選んでくれなければ、巣は一つもできません。だから私たちは、「天然か養殖か」という二択だけでは、この生産方法を十分に説明できないと考えています。

06|ただし、「バードハウスだから安心」でもありません。

ここが、とても重要です。

バードハウスというと、「人間が管理しているのだから、洞窟より清潔で安全なのでは」と思うかもしれません。でも、現地を見ると、そんなに単純ではありません。

バードハウスには、管理水準に大きな差があります。言ってしまえば、ピンからキリまであります。

燕の巣専用につくられ、周囲の自然環境や温度・湿度、衛生状態まで考えて管理されている施設もあります。一方でマレーシアでは、もともと人が使っていたショップハウスや建物を、アナツバメの営巣施設へ転用した例も研究されています。都市部・住宅地域でのバードハウスをめぐっては、騒音や衛生、周辺住民との共存などが議論されてきました。

だから、「バードハウス産」という言葉は、品質保証マークではありません。

洞窟だから良い。バードハウスだから良い。天然だから良い。養殖だから悪い。そういう話ではありません。

見るべきなのは、その施設が、どこにあるのか。周囲はどんな環境なのか。どのように管理されているのか。いつ採取しているのか。どう加工しているのか。そして、その履歴をどこまで確認できるのか。です。

「バードハウス」というラベルではなく、そのバードハウスを見る。それが、燕の巣を選ぶ一つの基準になります。

バードハウスと洞窟の違いは、洞窟産とバードハウス産は、どちらが安全ですか。で数値とともに扱っています。

07|白い巣と「血燕」。色だけでは品質は分かりません。

最後は、色の話です。

燕の巣というと、白く半透明なものを想像する人が多いと思います。一方、中華圏では赤褐色の燕の巣が「血燕」などと呼ばれ、高級品として扱われてきました。

かつては、「アナツバメが血を吐いてつくったから赤い」といった物語も語られてきました。

これは、誤りです。

2018年に Journal of Agricultural and Food Chemistry に掲載された研究が、原因を特定しています。巣の糖タンパク質に含まれるチロシンという成分が「ニトロ化」され、3-ニトロチロシンに変わることで、白い巣が赤くなる。研究チームは、4種類の異なる分析でこれを裏づけました。

つまり、「赤い=鳥の血」ではありません。血でもなく、岩の鉄分でもなく、巣そのものの成分が化学的に変化した結果です。

そして、この研究にはもう一つ重要な指摘があります。赤い巣で亜硝酸塩・硝酸塩の濃度が高いことも、この同じ仕組みで説明できるというのです。

つまり、赤くなることと、亜硝酸塩・硝酸塩が多いことは、別々の話ではなく、同じ現象の裏表だということです。私たちが別の記事で見た、洞窟産の硝酸イオンがバードハウス産の約377倍だったという測定結果とも、この説明はつながります。

だから、赤い巣について見るべきなのは「血かどうか」ではありません。亜硝酸塩・硝酸塩の量。そして、人の手で色をつけていないかどうか。この二つです。

そのうち後者、人工的な着色・偽装の問題も、実際に起きてきました。

2011年、中国・浙江省で「血燕」として販売されていた商品が大きな問題になります。当時の検査では、血燕から検出された亜硝酸塩濃度が平均4,400mg/kgと報じられました。当時報じられた上限70mg/kgと比較すると、約63倍という非常に高い値です。

一部ではこの事件が「基準値の350倍」と紹介されることがあります。しかし、私たちが確認できた資料の数字からは、その倍率にはなりません。だからツバメディアでは「約63倍」とします。

また、「亜硝酸塩=そのものが発がん物質」と単純化するのも避けます。亜硝酸塩は条件によってN-ニトロソ化合物の生成に関与する可能性があり、その中には発がん性が確認されているものがあります。

重要なのは、怖がることではありません。白いから安全でもない。赤いから高品質でもない。ということです。

なぜ、その色なのか。どのように加工されたのか。何を検査したのか。そこを見る必要があります。洗浄と選別の工程については燕の巣は、洗ってあるのですか。をご覧ください。漂白と着色については、別の記事で詳しく追いかけます。

7つ知ると、燕の巣の見え方が変わります。

  1. 日本のツバメとは、そもそも違う鳥。食用燕の巣をつくるのは、アマツバメ目のアナツバメの仲間です。
  2. 巣の主な材料は、舌下腺から出る分泌液。ただし「すべての燕の巣が100%唾液だけ」とまで一般化はしません。
  3. 一つの巣をつくるのに、およそ35日。その後、産卵、抱卵、育雛という繁殖の時間が続きます。
  4. 巣は一度きり。産地では、ヒナが巣立った後の巣を採ると説明されています。ツバメディアは、この説明を採っています。
  5. バードハウスは、鳥を閉じ込める養殖場とは違う。鳥は自由に出入りし、自ら餌を探します。
  6. でも、バードハウスなら何でも良いわけではない。施設、周辺環境、管理、採取、衛生状態には大きな違いがあります。
  7. 白・赤という色だけでは、品質は判断できない。自然な色の変化もあれば、漂白・着色など人為的な加工が問題になる場合もあります。

「天然か、養殖か」より、その先を見る。

私たちも最初は、「洞窟産が天然で、バードハウス産が養殖」くらいの理解でした。

でも、現地へ行き、生産者に会い、アナツバメが飛んでいる姿を見て、加工工場へ入り、研究論文を読み始めると、それだけでは説明できないことが、たくさん出てきました。

だからツバメディアでは、「天然か、養殖か」だけでは判断しません。

どのアナツバメがつくったのか。どこで営巣したのか。周囲にはどんな自然があるのか。鳥は自由に行動しているのか。繁殖を妨げない採取が行われているのか。どう洗浄・加工したのか。漂白や着色はしていないのか。どんな検査をしているのか。どこまで遡って追跡できるのか。

一つずつ見ていく。

燕の巣って、本当に鳥の巣?

はい。本当に、鳥がつくった巣です。

でも、その一言だけでは、燕の巣のことをほとんど説明できていなかったのかもしれません。

一羽の鳥が、自分で場所を選び、自分で餌を探し、自らの分泌物を重ねて巣をつくり、そこで次の命を育てる。そして、その後に、採取する人がいる。加工する人がいる。検査する人がいる。海を越えて届ける人がいる。

だから私たちは、燕の巣を知るとき、「何が入っているのか」だけではなく、「どこから、どうやって来たのか」まで見たい。

ラベルではなく、その背景を見る。それが、ツバメディアが燕の巣について伝えていきたいことです。

WHAT WE DON’T KNOW YET

まだ分かっていないこと

燕の巣については、まだ研究途中のこともたくさんあります。

  • アナツバメの繁殖行動は、種・地域・環境によって異なる可能性があります。ツバメディアは、産地で長くこの鳥に関わってきた方々の説明を採っています。条件ごとの違いを網羅的に比較したデータが、十分にあるわけではありません。
  • 舌下腺の重量(約2.5mg→160mg)は、レビュー論文が Medway 1962 を引いて紹介している数値です。編集部はレビュー本文を確認していますが、Medway 1962 の原著は未確認です。
  • バードハウスについても、施設ごとの管理水準を網羅的に比較したデータが十分にあるわけではありません。
  • 赤色になる化学的な仕組みは2018年の研究で特定されましたが、なぜ特定の巣や特定の場所でそれが起きるのか(窒素化合物がどこから、どのような条件で供給されるのか)は、まだ十分に整理されていません。
  • 2011年の浙江省の事案の数値(4,400mg/kg・70mg/kg)は、当時の報道と、それを整理したレビュー論文(Zulkefle ほか 2024)に基づきます。編集部はこのレビューの本文を未確認です。一次資料を確認したうえで、必要なら数値を訂正します。

分からないことを、分かったことにはしない。新しい研究や現地取材によって分かったことがあれば、この記事も更新していきます。

DISCLOSURE

この記事について

ツバメディアは、日本伴照株式会社が運営しています。同社は燕の巣を扱う事業者であり、中立な第三者ではありません。

だからこそ、自社や業界に都合のいい説明であっても、根拠を確かめられないものは、確かめられないものとして扱います。

現地で聞いたこと。昔から語られてきたこと。研究で確認されたこと。まだ分かっていないこと。それぞれを混ぜない。

確かめられたことは、根拠とともに。まだ分からないことは、分からないままに。それが、ツバメディアの編集方針です。

SOURCES

  • Nurul Hidayah Jamaludin ほか「Overview of edible bird’s nests and their contemporary issues」Food Control, vol.104, 2019. DOI: 10.1016/j.foodcont.2019.04.042(分類、舌下腺の発達、巣づくり日数、巣の寸法・重量、分泌液の割合、血燕の色の諸説。編集部が原著を確認)
  • Shim EKS ほか「Nitration of Tyrosine in the Mucin Glycoprotein of Edible Bird’s Nest Changes Its Color from White to Red」Journal of Agricultural and Food Chemistry, vol.66(22), 2018, pp.5654–5662. DOI: 10.1021/acs.jafc.8b01619(赤色化の原因はチロシンのニトロ化。赤い巣の亜硝酸・硝酸が高い理由も説明。編集部が抄録を確認)
  • Medway L. 1962(舌下腺の重量変化。上記レビュー内での引用。原著は未確認)
  • Zulkefle ほか「A Review on the Edible Bird’s Nest Quality and Manufacturing Standards of the Three Largest Exporting Countries in the World」Journal of Food Quality, 2024.(2011年の亜硝酸問題、各国の品質管理。本文は未確認)
  • マレーシア・ジョホール州デサルでのツバメディア現地取材(2026年)

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